れべるへっど

前に書いたQuitじゃないけど、なんらかの事情でしかるべきときに世に出せなかった音源があるという話はよく聞く。未発表のまま闇に埋もれていくものがあれば、長い年月をへてようやく日の目を見るものがある。ここで紹介するLevelheadのアルバムは後者の例(※Level Headという表記もあるけど、以下Levelheadで統一)。

Levelheadはアメリカのジョージア州アトランタ(もしくはアトランタ近郊のマリエッタ)出身のバンド。ドラムのGino、ベースのMatt、ギターボーカルのJayの3人が1991年に結成。たぶん当時メンバーは高校生くらい。しばらくのあいだは手探り状態だったが、1993年にGinoが大学進学にともない脱退し(のちに自主リリースの7"がMutant Popから再発されるThe Pulloutsを結成)、Jayの弟のBradがドラムとして加入してから、サウンドの方向性が定まっていく。1994年に自分たちのレーベルSlender Boy / Fat Boy Recordsから『Spooky?』7"をリリース。1995年には、同じアトランタのメロディックハードコアバンドQuadiliachaとのスプリット7"をStandfast Recordsからリリース。地元を中心に精力的な活動をおこなう。同年、夏のリリースを目指してアルバム用の曲を録音し、レコ発の国内ツアーを計画。Tシャツをつくり、バイトにはげみ、ZINEや口コミやダイアル式電話をとおして(当時はスマホSNSもなかった)日程を組む。すべてが準備万端。ただひとつ、アルバムを除いて。とある新興レーベルがCDでリリースする約束を破ったのだという。理由はわからない。連絡が途絶える。そのまま肝心のアルバム不在の「レコ発」ツアーに出るはめになる。1996年、The PulloutsのフロントマンであるDamienがセカンドギタリストとして加入。フロリダツアーやいくつかの単発ライブをこなす。しかしアルバムをリリースする機会はついぞ訪れず、1997年にあえなく解散。

メンバーのその後。JayとDamien、オリジナルドラマーのGinoはThe Walt Lariatを結成。2001年にはJay&Brad兄弟が再びタッグを組み、The Paper Championsを結成。2008年に兄弟は、Premonition/Self/Insult To Injury/Dade County ResistanceのGarrett(かれのレーベルThree Day Hero RecordsのコンピにLevelheadが"Denizen"という曲で参加した縁もある)とLakehurst is Burningを結成。2011年には新たなメンバーをむかえ、Echo Romeoを結成。どのバンドもアトランタを中心に活動し、エモ〜インディーロックなサウンドを鳴らしていた(最初の二つはDeep Elm Recordsの『The Emo Diaries』シリーズにも参加)。Levelhead解散後、ベースのMattアトランタをはなれて、DirtbikeやCallsignというバンドで活動していたとのことだが、詳細はわからない。

ぼくがLevelheadを知ったのは、サウスカロライナのポップパンクバンドSelfのアルバムのサンクスリストだった。サンクスリストというのは、音源の制作にかかわったレーベルやエンジニア、ライブで共演したバンド、お世話になった人たちなどの名前を列記して、バンドが感謝を伝える欄のこと(正式名称はわからないけど)。CDやレコードについてる歌詞カードとかインナーとかに書いてあるアレね。本でいう謝辞、映画やゲームでいうスペシャルサンクス。これがまた貴重な情報源でして。90年代のメロディック/ポップパンクを「後追い」で聴いてた00年代のぼくは、サンクスリストで挙げられてるバンドやレーベルをメモしては、芋づる式に音源を「掘る」ことをたのしんでいた。サンクスリストを見て手に入れた音源のサンクスリストを見て手に入れた音源のサンクスリストを見て…といった具合に。この無間地獄にはまりこんで人生を棒にふった人は数えきれない。なかでもSelfのアルバムのサンクスリストは、いわゆるB級メロディック好きにとっては金鉱山みたいなもので、個人的にベストサンクスリスト賞をあげたい。Unfound Logic、Revolvers、Webster、Knucklehed、Scaries、Fun Sizeなどが並ぶそのあいだで恥ずかしそうな顔をしてたたずむ(勝手なイメージ)Levelheadなる名前を見て、よさげなバンドだと目星をつけた。調べていくと、Sneezeguard Recordsの名コンピ『Dear Fred』にも参加してたという情報を見つけ、期待は高まる。2枚の7インチの存在を確認し、はじめに単独7"、つづいてスプリット7"を海外のディストロから購入。聴いてびっくり。Fifteen系のメロディックパンクだった(Fifteenの泣きメロを期待しちゃダメだけど)。いわゆるイーストベイスタイルなサウンドで、なんていうか、コミカルでユニーク。『Spooky?』7"はショボくて平板な印象を受けるけど(本人たちいわく、急いでつくったとか)、そこがまたいとおしい。Quadiliachaとのスプリット7"は疾走感がぐんと増してメロディーもよくなってる。どっちも好き。

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そのあとも調べてると、同じ時期に同じアトランタで活動してたDC系エモーショナルハードコアバンドCar vs. Driverのメンバーがやってた「Beyond Failure」というブログにたどいついた。マメな人がいるもんで、当時のシーンを記録してるこういうブログなりサイトなりの情報ってすごく助かる。そこの記事でLevelheadのディスコグラフィーをダウンロードできるようにしてくれてた。しかも、2枚の7インチの曲やコンピ提供曲のほかに、なにやら「幻のアルバム」の曲もふくまれてるっていうじゃない!未発表のアルバムがあったなんて、テンション上がるやん。聴いてみたらさらにテンション上がった。時期的にめちゃくちゃ脂のってたんやね。あふれるアイデアをできるだけ詰めこんじゃえ!ってな勢いで曲が展開していく。明るいのか暗いのかよくわからないのにクセになるメロディーが矢継ぎ早にくり出され、7インチに比べると洗練されたサウンドはあわただしくも意表をつく。それまでのFifteenっぽさにくわえ、Jawbreakerへの接近がところどころに感じられるけど(まんまなベースラインもあったり)、自分たちの個性をしっかり確立してる。まちがいなくバンドのベスト音源。なんでこれ出さんかったんや!

上記の「Beyond Failure」のコメント欄には、LevelheadのJayさんやMattさんもふくめ、当時のアトランタシーンにかかわりのある人たちがコメントしてて、なかなかおもしろい話が書いてあった。たとえば、「幻のアルバム」は『Humans Would All Look the Same At First to an Alien』(「宇宙人がはじめて人類を見たら、みんな同じに見えるだろう」くらいの意味かな?)というタイトルだったとか。Car vs. Driverのメンバーが運営するLunchbox RecordsからLevelheadの音源をなにか出したかったが実現しなかったとか。Car vs. Driverが、フロリダのNo Idea Recordsからスプリット7"を出さないかと誘われたとき、スプリット相手にLevelheadを推薦したが、No IdeaのVarさんがほかのバンドに代えたがったので、けっきょくリリース自体を辞退したとか(もしNo Ideaから出てたら、Levelheadの知名度はもう少し上がってたかもね)。あと、Levelheadのアルバムを出さなかった人の名前も書いてあったけど、ここではくりかえさない。なんにせよ、アルバムが出なかったことを惜しむ声がいくつも寄せられてた。これが2008年の話。

それから5年。2013年にLevelheadは、盟友Quadiliachaとともに一夜かぎりの再結成ライブをおこなう。

アルバムをリリースできなかったことが、やっぱりメンバーの心のどこかにわだかまりとしてずっと残ってたようだ。とくに再結成ライブ以来、自宅に保管してるアルバムのマスターテープが自分の顔を見つめてくるようになったとJayさんは語る。2015年、アルバムをLPで自らリリースしようと思い立ち、クラウドファンディングサイトでレコード制作にかかる資金を募る。すると物事がとんとん拍子に進展。翌2016年、20余年の月日をへて、ついにアルバムがリリースされた!

バンドはとっくに解散してる。アルバムをリリースするタイミングは完全に逸してる。ダウンロードなどによって愛好家たちのあいだで曲は出回ってる。それでも出したい人がいて、欲しい人がいて、それを形にできる手段があった。あのころにリリースしておけば…という思いは残るにしても、たぶんこれでよかったんや。

このレコードは、20年以上にわたる労働、10代の不安、中年の危機、それにこれらの曲を世に出したいといういつ終わるとも知れない疼きの集大成だった。クラウドファンディングによって、それがいま現実のものとなった。これを実現するために力になってくれたすべての人に感謝する。あなたたちがいなければ、これらの曲はいまだにテープのままで、靴下を入れる引き出しのなかでほこりをかぶっていただろう。(LPのインナーの文章を和訳)

かくいうぼくは、今年になってようやくLPを購入。ダウンロードしてはじめて聴いたときから10年近く経ってるので、時間の早さをしみじみと感じる。そのあいだ音楽の好みはほとんど変わらなかったみたい。レコード盤のカラーはランダムらしく、ぼくのは紫色のマーブルビニールだった。インナーにはバンドの歴史や当時の写真が掲載されてる。歌詞が載ってないのはちょっぴり、いやけっこう残念かも。それでもレコードで聴くのはやっぱりいい。ぜんぶで16曲。A-3"Canine Nation"からA-7"Tape The Line"の流れが好き。ラストの曲は、オーストラリアのロックバンドMen At Workの曲"I Can See It In Your Eyes"のカバーで、Boxcar Recordsから出た『Totally Fucking The '80s』というコンピにも入ってる。個人的には、B-6"In A Minute"がほんまの最後の曲で、B-7"Rachel"は隠しトラック、B-8"I Can See It In Your Eyes"はボーナストラックってな感じ。

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さて、ここまで読んでくださった人のなかで、このLevelheadのLPを欲しい方いますか?ディストロするつもりはなかったのですが、ついでなので複数枚入手しました。前述のとおりレコード盤のカラーはランダムなので、こちらでもどんな色が入ってるのかわかりません。届いてからのお楽しみということで。

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