まふぽったあ

ドイツ西部にあるライネやミュンスター出身のパンクバンドMuff Potterが先月、活動を休止してから9年ぶりに再結成した。「民主主義と寛容」をかかげて毎年催される"Jamel rockt den Förster"という反ナチ野外フェスに出演したようだ。来年にはツアーをおこなうことがすでに決まっている。一時的な再結成なのかそのあとも活動継続するのかはわからない。

Muff Potterといえば、ドイツのバンドの音源レビューなどでよく引き合いに出されるのを見かける。ドイツ語で歌うメロディックなパンクの代表的なバンドのひとつとして認知されてるみたい(とはいえ、1993年から2009年までの活動期間を通じて、作品ごとにサウンドは大きく変わっていく)。後年にはメジャーのUniversalから音源を出していて、ほかにHot Water MusicやChuck Raganとのスプリットや、さらには日本盤CDもリリースしている。そのわりにはこっちであんまり名前を聞かないね(ぼくが知らないだけかも)。へんにメジャーがからむとかえって伝わらないんやな。

そして今回の再結成にともない、3rd〜6thまでの4枚のアルバムがレコードで再発されるのにくわえ、レアトラック集がリリースされる予定。1stと2ndは再発しないのかな?Muff Potterの初期の音源は安くで見かけることがあまりないので、そっちも望んでる人けっこういると思うけど。

ところで先日、LPが再発されるなんてつゆ知らず、2000年にリリースされた3rdアルバム『Bordsteinkantengeschichten』のCDを中古で手に入れた。ちょっとタイミングわるかったね。でも再発盤LPもわりと値が張るので、これはこれでよかった。

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このアルバムがMuff Potterのベストだというのが衆目の一致するところなのかな。ぼくはこれがいちばん好き(やし、これしかもってない)。Muff Potterは、SlimeやEA80またはDackelblutや...But AliveといったDeutschpunk(ドイチュパンク)の系譜を継ぐバンドと位置づけられる。よくわかってなかったけど、Deutschpunkってドイツのパンク全般を指す言葉ではなく、単にドイツ語で歌うパンクの総称でもなく、特定のスタイルをもつパンクの1ジャンルらしい。もともとは80年代ドイツにおけるニューウェーブやパンクの商業化の流れに対抗して生まれたそうな。そこにカテゴライズされるバンドのサウンドにはもちろん幅があると思うけど、性急なリズムとシンプルな曲構成、それと急進左翼的なドイツ語の歌詞や姿勢をもつのが特徴とされる(ぼくの聴くかぎりでは、陰鬱で暗い雰囲気のバンドが多い)。今作では、 そのDeutschpunkの鍋のなかにJawbreakerとSamiam(あとLeatherface)がどっさり投げこまれ、メロディック風味がぐっと増して、絶妙な味わいとなっている。Dinosaur Jr.の同名曲を口ずさみながら始まる1曲目"Take A Run At The Sun"のイントロからワクワクすっぞ。わりと長めの曲が多いのに、最後までダレることなくテンションを維持してる。そして締めの2曲が最高。たまらん。何杯でもおかわりできる。

Muff Potterはサウンドもさることながら歌詞もいいという。かれらはかつて自分たちの音楽スタイルを「angry pop music」と言いあらわしていたらしいので、怒りをぶちまけた歌詞なのかなと思いきや、あくまで今作にかんしてはそうでもない。機械翻訳に放りこんでちょこっと辞書を引いただけなので、だいぶ理解はあやしいけど。べつに国家の暴力を糾弾したり、ファシストを罵倒したりしない。政治的社会的イシューを直接的には扱わない。もっと私的で詩的。隠喩やほのめかしが多く、なかなかとらえづらい。「怒り」というよりは「悲しみ」、いやもっとなにか人生の「苦み」みたいな感じ。語りをまじえた最後の"Frozen Man Syndrome"は、短編小説的なおもむきがあっておもしろい(このタイトルはチャールズ・ブコウスキーの作品と関連があるらしいけど、詳細はわからない)。

あと、このジャケットのアートワーク(顔じゅうにキスマークをつけた人形)ってなにか元ネタあるのかな?というのも、2年ほど前に見た『セッション9』っていう映画のワンシーンにこれと同じ写真が映りこんでたから。廃墟になった精神病院のアスベスト除去にやってきた作業員たちに忍び寄る恐怖を描いた映画。かつての患者のひとりが過ごしてたと思しき病室に主人公が入っていく場面で、壁一面に貼られた写真や切り抜きのなかに、この人形の写真が並んでた。恐怖を煽るような場面なだけに、見たときはちょっとゾッとした。

余談だけど、Muff Potter(マフ・ポッター)というバンド名は、マーク・トウェインの『トム・ソーヤーの冒険』に出てくる酒呑みのおじさんに由来してる。かれらの自主レーベルHuck's Plattenkiste(ハックのレコード箱)も、同小説の主人公トムの親友ハックルベリー・フィン(通称ハック)にちなんでる(名古屋のライブハウスHuck Finnもここから来てることにいまさら気づいた)。そういうつながりもあって、このあいだ『トム・ソーヤーの冒険』を図書館で借りて読んだ。大まかな筋は「世界名作劇場」のアニメで見て知ってたけど、小説ならではの物語をたのしんだ。つづけざまに続編の『ハックルベリー・フィンの冒険』も読んだ。そっちもおもしろかった。