QFR

昨年、突如として再結成を果たし、25年ぶりのヨーロッパツアーをおこない、そのツアーに合わせて未発表のデモやライブ音源を収録した編集盤をBoss TuneageからリリースしたMoving Targets。今後、新しいアルバムが出そうだし、もしかしたら日本ツアーもあるかもしれない。今年は4月にDescendents、7月にSamiam、11月にBlack Flagと、往年の「伝説的な」バンドたちが軒並み来日予定。海外のDIYパンクバンドも近年はたくさん来てる。いつかMoving Targetsもあるんじゃないかと期待してしまう。

それで思い出すのがこんな歌。

Look at the pictures is there anyone I know and isn't that the shirt that I bought at the Moving Targets-show. I can't believe this haircut when I let my hair just grow. I would like to be again at this Moving Targets-show.

 

写真を見てごらん、知ってる人はいるかな?/あれはMoving Targetsのショーで買ったシャツじゃない?/髪を伸ばしていたときの自分がこんな髪型だったなんて信じられない/もう一度このMoving Targetsのショーに行きたいな/

 

これはQuest For Rescueの"Look at the Pictures"という曲の一節。QFRは、ドイツのレーヴァークーゼンとケルン出身のバンド。1991年に結成され、近年は数えるほどしかライブしてないけど、たぶんまだ解散してない。活動25周年をむかえた2016年には、Audiolith Recordsというハンブルクのレーベルから、かれらの全3枚のアルバムがデジタルで利用可能になった。各種音楽配信サービスで聴けるはず。

TRUST Fanzineのインタビューで、この曲で言及しているMoving Targetsのショーについて聞かれたQFRのメンバーは、「いつだったかは思い出せないけど、ケルンのRose Clubで見た"Burning in Water"ツアー[のライブ]だった」と答えている。そこでRose Clubのメモリアルページを見たら、1990年7月26日にMoving Targetsがライブしたという記録がちゃんと残っていた。同インタビューによると、メンバー4人のうち3人がその場にいたらしい。この経験がQFRの結成、ひいてはかれらの音楽性に大きな影響を与えたんじゃないかなって思ったり。

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QFRは2本のデモ、2枚の7インチ、そして3枚のアルバムを残してる。なぜか野菜の名前をタイトルにした作品が多く、1994年の単独7"は『Cauliflower』(カリフラワー)、1995年の1stアルバムは『Asparagus』(アスパラガス)、1998年の2ndアルバムは『Turnip』(カブ)といった具合。でも残念ながら、2007年の3rdアルバムは『Common Grounds』となっている。さすがに『Potato』だとドイツといえば的なイメージを狙いすぎかもしれないので、せめて『Zucchini』とか『Lettuce』とかにしてほしかった(笑)。

上の写真ではグリーンアスパラを並べてしまったけど、ドイツでアスパラガスといえば白アスパラのことを指すらしく、ドイツ語でSpargel(シュパーゲル)といい、春の訪れを告げる味覚として親しまれてるという(こっちでいうタケノコみたいな感じ?)。でもそもそも近所のスーパーに白アスパラなんか売ってないしなぁ。もし万が一、QFRのメンバーがこのブログを見つけて、この写真を見て、「そっちのアスパラガスじゃねえよ」ってコメントしてきたらどうしよう。。

あと『Cauliflower』7"は、以前もってたはずなのに、探しても見つからなかったので(売ってしまったんかな…)、写真を撮れなかった。野菜のカリフラワーはあんまり好きじゃないし、まあいいや(ブロッコリーは好き。野菜もバンドも)。手元にないのでバンドのSoundCloudで聴こうっと(ほかに初期デモの曲もいくつか聴けまっせ)。ちなみに『Cauliflower』はドイツのBlurr Recordsのリリース第1作目であり、QFRのアルバムは3枚ともBlurrから出てる。Free YourselfやT(h)reeeなんかも出してるナイスなレーベル。

デビューアルバムでありながらフレッシュさとは無縁な 『Asparagus』。わるくいえば地味、よくいえば渋い。どっちにしろ、ぼくはこういうのが好き。メンバーにはBMXのプロライダーがいたり、BMXやスケボーのビデオにも楽曲提供をしたことがあるというQFRだけど、スケートパンク的なノリのよさはない。むしろなにか釈然としない重い空気がただよう。平易な英語による歌詞も、すれちがい、孤独、不安など内向きなものが多い。このアルバムがいちばん簡素で飾り気がなく、こぢんまりとした印象を受けるかもしれない。ただ、"Try"や"Time Goes By"など目を見はるような曲があるのも事実。落ち着きのあるボーカルがうたうメロディーのよさがひときわ目立つ。ドイツのバンドながらアメリカのメロディックなパンク/ハードコアからの影響がうかがえ、Moving TargetsやHüsker Düはもちろんのこと、SamiamやPegboyが頭に浮かんでしまう。

Moving Targetsのショーをなつかしむ先述の"Look at the Pictures"が1曲目に位置する『Turnip』。QFRの本領発揮はここからと言いたい。一気に枯れた味わいを獲得した印象。感情の機微を丁寧に拾いあげるかのようにサウンドに繊細さが加わったおかげで、じんわりと楽曲にひたる余地ができた。やりたい音を出せるようになったのか、Moving Targetsに一歩近づいた感がある。もちろん、QFRにしかない魅力があるわけだから、そんな言いかたは失礼なのだけど。アルバムのまんなかに置かれた"Seasons"は、本作の核といえるバンドの代表曲で、アルバム全体の雰囲気を要約してるような感じがする。季節の移ろいと感情の移ろいを重ねる歌。夏は過ぎ去った。窓の外を見ると、雨がしとしと降っていた。遠くでは夕闇の青黒い光がかすかにたゆたっている。そんな景色。こうやって勝手にイメージをふくらませて遊びたい。QFRの歌詞は「close my eyes」という表現がよく出てくる気がするので、できれば目を閉じて聴きたい。そうすると自動的に部屋のすみっこで膝をかかえる形になる。余談だけど、同時期のドイツにTurnipというエモバンドがいて、本作のサンクスリストにちゃんと名前が載ってる。かれらにちなんでこのアルバム名にしたのかな?

前作から9年。長い冬ごもりのすえに芽吹いた『Common Grounds』。そんな意図はまったくないだろうけど、ジャケットの白と薄緑の配色も、雪のあいだから顔をのぞかせる草花を思いおこさせる。でも実際、サウンドは明るさを増していて、春のやわらかな光が似合う作品となった。音の輪郭がクリアになり、風通しがいい。エモの香りが鼻腔をくすぐる。おもに対人関係をうたう歌詞は明るくなったとは言わないけど、少なくともネガティブな感情を引きずらなくなった。心にゆとりが生まれ、過去にとらわれずに現実を受け止められるようになったみたいな。9年たてば生活環境も変われば考えかたも変わる。成熟なのか、あきらめなのか。お互いの「common grounds」(共通点、落としどころ)を見いだしながら、場合によってはきっぱりと距離をおく。やさしくもあり、さびしくもある。水のなかで燃えている。って、かっこつけて書いても恥じないくらい、聴いてるとエモい気分になる。