すぷりっと

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CustodyとThe Phoenix Foundationのスプリット7"とChestnut RoadとNavelのスプリット7"。

 

今年に入りCustodyとThe Phoenix Foundationというフィンランドで活動する哀愁メロディックパンクの2バンドによるスプリット7"がUKのLittle Rocket Recordsからリリースされている。これまで何度か書いているかもしれないけど、ぼくはThe Phoenix Foundationがめっちゃ好きなんですわ。そんでお相手がCustodyとくれば鉄板なわけ。うんうんと頷くしかない組み合わせ。今作はお互いに1曲ずつ収録。あと、The Phoenix Foundation関連のレコード作品ではお馴染みだけど、裏ジャケに歌詞を掲載する形式が地味に好き。

Custodyは主にSamiamなどを想起させる90年代的なサウンドを志向しており、ここに収録の"Tuesdays"は持ち前の憂いのメロディーを効かせてじわじわと聴かせてくる曲。失意を抱えたまま自信が持てず気分が沈むのを酒でごまかす。繰り返される日々、繰り返されるフレーズ。せめて少しでも前向きになれたらいいけど。曲はキャッチーだもんで次第に心もほぐれてくるというか、最初パッとしなくもなかったけど数回聴いたらいつ間にかサビの部分を口ずさんでたりとわりと好きになってた。底に沈んでいた熱が徐々にこみ上げてくる。

一方のThe Phoenix Foundationは"Secrets"という曲を収録。これがまた6分超えの曲で、このバンドのなかでは最も長尺なんじゃないかな。ともすれば冗長気味に捉えられかねない曲だけど、ぼくにとっては全くそんなこともなく。繊細なアルペジオに始まり、内に秘めた感情が徐々に発露していくような流れから一気に開放される。歌に入るまでの2分近くの間にすでにぼくの心の空模様は慌ただしく。美しいメロディーに堕ちてゆく。あいかわらずThe Phoenix Foundationはかなしさの景色を描き続ける。自分の内にわだかまる失意を伴う負の念が自分自身をさらに追い込んでゆく。束の間の安穏も渦に呑まれる。轟音に紛れて聞こえる叫び。「これで終わりじゃない」という言葉はどちらの意味なんだろうか?

2018年にUKのレーベルであるBrassneck RecordsからリリースされたフランスはトゥールーズのChestnut Roadと中京のNavelによるスプリット7"。こちらは年末年始頃には色んなディストロに入荷していたもののどこもすぐに売り切れになってたし、ぼくもなぜかレコードに針を落とすまでは聴くまいと決めていたので、先月に手に入れることができてようやく聴けたってのがまず嬉しかった。Chestnut Roadは"Black Corridor"と"Prison"、一方のNavelは"Dying"と"End of The Line"を収録。どれも陽気な歌じゃないことくらいは曲名を見ただけで察しがつく。そして暗雲に取り巻かれているようなジャケットのイメージ。こいつはオダヤカジャナイ。

Chestnut Roadは特に2曲目"Prison"がBroccoliやHooton 3 Carを思い出させる流れるような哀愁メロディックチューンなので、ぼくみたいなやつにはスーッと入ってくる。前作にあたる2nd LPは正直言うと全体的に自分にはそこまで響かなかったこともあり、この思いっきりUKメロディック路線に回帰したような曲を聴いてやっぱいいなと思った。より緩やかなテンポの1曲目"Black Corridor"はその始まりから気怠くずっと鬱々とした空気が消散することなく終わる。諦めの観念が何かを吹っ切れさせてくれるわけでもなく。ただ、1曲目もだんだんと良く思えてきた。一抹の光が差すような2曲目があってこそかもしれないけど。

Navelについては、ぼくは前作のSkimmerとのスプリットCDに収録の"Separation"においてその慟哭と激動に引き裂かれズタズタの雨曝し状態にされた経験があったにもかかわらず、今回、この7インチレコードに初めて針を落として1曲目の"Dying"が鳴ったときのぼくはいささか無防備だった。流れてくる音、年々さらに研ぎ研がれ痛切さを増す哀愁に再びぼくの心はえぐられる。ただ、1曲目はNavel節全開という感じである意味で自分にとっては妙な安心感もあった。それに対して、続く2曲目の"End of The Line"はいままでのNavelっぽくない曲で驚かされた。しかしこんなのやられたらたまらないわけ。本質は変わらずのサッドパンク。うつむいた心のまま夜道に空を見上げて歩くようにミドルテンポで紡がれるこの曲はロマンチックでやるせない。別に歌詞は甘美なことなど歌ってはいない。なんてことのない当たり前だった風景もいまやロマンチックだと感じられるほどに現実はやるせなくなっていっている。

 

どちらのスプリットも響いた作品だった。この4バンドなら他の組み合わせだって見てみたくなる。例えば、Chestnut RoadとCustodyもなんかしっくりくるし、それにNavelとThe Phoenix Founationのスプリットなんてそれはそれは最高だと思う。この2枚を並べるとそんな妄想もしたくなるってもんです。

 

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