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1990年代前半にアメリカのオレゴン州ユージーンで活動したArtless Motivesと、同郷のBickerによるスプリットLP。1994年リリース作。Artless Motivesサイドは、前年に自分たちのレーベルLittle Willy Recordsからカセットでリリースした1stアルバム『Peace Through Corndogs』が、何曲か削られたうえで収録されてる。Bickerもメロディアスなポストハードコアでかっこいいけど、なかなかそちらの面に裏返せない。

Artless MotivesはおそらくOperation IvyやCrimpshrine/Fifteenなどのベイエリアのバンドに影響を受けたであろうポップパンク。実際、Fifteenとショートツアーをおこなったこともあるらしい。この音源まではトランペットのメンバーがいて、スカも入ってる。エネルギーをもてあます日々の悶々とした感情をぶつけるような若さあふれるサウンドは、前のめりに突っ走っていく勢いがある。掛け合いやコーラスもラフな感じ。ハードになりきれず、どこか滲み出てしまうショボさがたまらん。

Little WillyのBandcampでは、2ndアルバム『The Corndog Conspiracy』や未発表の3rdアルバム『The Liz Phair Conspiracy』のほか、メンバーが今やってるOi!パンクバンドBlues Bustersなど関連バンドの曲も聴けるので、気になる人はチェックされたし。

ちなみに1stアルバムと2ndアルバムのタイトルにある「corndog」なる語は、当時メンバーが大きな影響を受けていたMinutemenの"History Lesson - Part II"という曲の歌詞からとられてるそうな。

We learned punk rock in Hollywood
Drove up from Pedro
We were fucking corndogs
We'd go drink and pogo

おれたちはハリウッドでパンクロックを知った
サンペドロから北上してきたんだ
おれたちはめちゃくちゃダサかった
よく飲みにいってはポゴってた

「corndog」というのはアメリカンドッグのことで、あちらのスラングで「ダサいやつ」って意味もあるらしい。アメリカンドッグって和製英語やったんやね。

で、アメリカンドッグが食べたくなったので、作り方を調べて作った。ホットケーキミックスを使ったから簡単やったけど、中身をバナナにしたら甘すぎた。。

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ところで『Peace Through Corndogs』のアートワークなんやけど(二人の子どもが抱きあってるイラストね)、1980年代に活動したTally-Hoeというイーストベイパンクバンドのデモテープのジャケと同じだと気づいた。Artless Motivesがそこからパクったのか?ほかに元ネタがあるのか?気になったので、Little Willyにメールで質問してみると、Artless MotivesのギターボーカルだったJoshさんからすぐに返事が来た。「(あのイラストは)シェル・シルヴァスタインの『歩道の終るところ』からとったんだよ」との回答だった。

知らなかったんやけど、シェル・シルヴァスタインさんというのはアメリカの作家/イラストレーターのようだ。『おおきな木』という絵本が有名らしい。『歩道の終るところ』(原題:Where the Sidewalk Ends)はイラスト付きの詩集。日本語版は倉橋由美子さんの訳で1979年に講談社から出版されてる。早速、図書館で借りてきた。

ペラペラ、、

 

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おった!

こういう線画、好きやわ。イラストを眺めるだけでも楽しい。ひとつひとつの詩が絵本のお話みたいな感じで、大半が1ページにおさまるくらいの長さ。ユーモアがあって、クスッとしたり、ギョッとしたり、ハッとしたりでなかなかおもしろい。英語版と照らしあわせながら読んでみると、原文にある言葉遊びやリズムのおもしろさをなんとか伝えんとする訳者の工夫と苦心の跡がうかがえて感心する。

例えば上のイラストが付された詩はこんなの。

  逢引き
綱引きはしたくない
逢引きの方がいい
引っぱらないで
抱きあって
クスクス笑って
ころげまわって
キスして
ニコニコ笑って
なでまわして
みんなが勝つってわけ
      HUG O' WAR
I will not play at tug o' war.
I'd rather play at hug o' war,
Where everyone hugs
Instead of tugs,
Where everyone giggles
And rolls on the rug,
Where everyone kisses,
And everyone grins,
And everyone cuddles,
And everyone wins.

この詩はシンプルなのに(だからこそ?)なんか深みがあって好き。

 

あと、Joshさんとのやりとりで個人的におもしろい話を聞いた。Artless Motivesは「元祖メロコアNICOTINEと交流があったというのだ。ぼくはNICOTINEきっかけでパンクというものを知ったクチで、友だちの部屋で流れてた"Black Flys"を聞いて、Jポップしか知らない耳にかなりの衝撃が走ったのを覚えてる。そういう意味では思い入れがあるバンドなんやけど、このつながりはめっちゃ意外やった。

NICOTINEまとめサイト」さんがまとめたNICOTINEの「歴史」のページに以下の記述があった。

[1993年]8月 : 渡米。西海岸、メキシコで10回のライブを行う。 初ライブはオレゴン州ユージーンという場所。 アメリカのパンク・カルチャーに触れ、この影響でパンクロックを目指すようになる。(※文中の[]は引用者による)

NICOTINEはもともとグランジ系のバンドだったらしい。 かれらをパンクに向かわせたきっかけにArtless Motives周辺との交流もあったんじゃないかな。

さらにJoshさんによると、NICOTINEArtless Motivesの曲のカバーまでしてるそうだ。NICOTINEのライブテープにそのカバーが入ってて、少し歌詞を変えてるか、もしくは曲の一部を演奏してるかのどちらかだという。残念ながら、肝心のそのテープは失くしてしまって手元にないらしい。もしかしたらだれかが個人的に録音したテープであって、リリースされた代物ではないかもしれないとのこと。だとしたら見つけるのは相当むずかしそう。う〜ん、聴いてみたい!