二泊三日の山陰メロディックツアー

今年もまたSkimmerがやってくる、はずだった。日程には関西でのライブがなかったので、見にいくとしたら名古屋か鳥取かを考えていた。けれど、メンバーの家族に不測の事態が起こったとのことで、Skimmerの来日はキャンセルとなった。それを受け場所によっては中止になるライブもあるなか、鳥取では予定どおり7月21日にライブが行われると聞き、NAVELも来るし、このまえ見たSomethingも来るし、semiとteleも見たいしで、よっしゃ鳥取いくぜ!となった。

どうやって現地まで行こうかと考えた結果、原付で行くことにした。京都から鳥取までは約200km。行けない距離じゃないと思った。それでも7時間くらいの運転は覚悟しないといけない。そんな話を聞きつけたSomethingのTommyさんが「車に乗せていきますよ」と、ほとんど話したこともないぼくに仏の手を差し伸べてくださったが、ぼくは鳥取在住の友だちと会おうと思ってたのでお断りしてしまった(結局この友だちとは会えなかったけど)。乗せてもらえばよかったなと、あとで後悔することになる。

原付の旅というのは出発前はたのしい。ようするにスピードが出ないツーリング。風を感じながらのんびり行けたらいい。いつもそんなにふうに思うけど、実際はあんまりのんびりできない。それはぼくの性格によるものが大きいのかもしれない。何時までに着かなければいけないと決まってると、できるだけ早く着きたいと思う一心であまり休憩を取らなくなる。弱いものいじめが好きな警察が取り締まりをしてるかもしれないから、気をつけないとねずみのふくろがふくろのねずみになってしまう("Highway police, make my heart beat faster. Go fuck themselves!" —Wild Animals "Avocado")。それに自分以外に原付なんかほとんど走ってない。せまい道路ではうしろについた車が煽ってくることもあるし(長いトンネルがこわい)、大型トラックが強引に追い越してくるときは風圧でこけそうになる。また、いつのまにか自動車専用道路に迷いこんでしまう可能性もある。そんなこんなでつねに気を張って走ってるから、たのしく景色を見てる暇があまりない。運転中は音楽も聴けない。話し相手もいない。よく考えたらあんまりいいことないやん。ミスった!

当日は朝に雨が降っていて心が折れそうになった。でもしばらくしたら止んだので、9時くらいにぼちぼち出発。鳥取までは国道9号線をずっと進めばいいので簡単だ。最初は少しウキウキしてたけど、丹波に達するころには早くも飽き飽きしてきた。12時くらいに福知山に着いて給油。そのあと夜久野で昼食。よりによっていちばん暑くなる時間帯に太陽がしゃしゃり出てきて、ハーフパンツにサンダルという格好でむき出しになった膝から下と、ハンドルを握る手の甲の皮膚がどんどん赤くなっていくのを目にしながら進む。鳥取の岩美に着いたのが16時くらい。道の駅で出会ったバイク乗りのおじさんに無料のキャンプ場を教えてもらい、もしライブ後に寝床を確保できなかったらそこに寝袋を敷いて泊まろうと決めた。下見がてらにそのキャンプ場へ行くと、公衆トイレに「マムシが出るので気をつけてください」みたいな張り紙があって、火照った体を冷やしてくれた。時間があるのでベタに鳥取砂丘へ行く。たしかに壮観だ。ひとりではしゃいでたら変かなと思い、走り出したい気持ちを抑えた。ラクダはいなかった。

19時を過ぎたあたりで会場へと向かう。会社の事業所や倉庫が立ち並ぶ地区の一角にライブハウスStrawberry Fieldsはあった。やっと到着。ちょうど前を歩いていたSomethingのMasakickさんとYoshioさんにあいさつする。すると入り口のほうからSP RECORDSのユウキさんが笑顔でかけ寄ってきてくれて、とてもうれしかった。数年前のMATSURI以来の対面かな。SPさんの巧みな話術に乗せられ(?)、翌日は松江に連れていかれることに決定。同日のSport来日ツアー津山編も選択肢としてはあったけど、結局は松江に行って大正解だったとあとで思うことになる。ライブハウスのなかに入ると、各バンドの物販のほか、島根のSP RECORDS、広島のFixing A Hole、滋賀/愛知のおへそやといったディストロ、それに鳥取の書店・汽水空港と、物販がかなり充実していた。ぼくの小さなディストロも出させてもらえませんかとあらかじめ聞いとけばよかった。ライブスペースは、フロアにゆとりがあって、ステージとDJブースは高めだった。

今回の企画は、semiの池田さんとteleの長坂さんが共同運営してきた「鉛色の光 」のvol.5。この日をもって「鉛色の光」は一旦終了し、今後ふたりは個々に企画していくとのこと。節目に立ち会えてよかった。しかも今夜は曰く「初老のおじさん達によるサッドメロディックフェス」!

一番手は地元・鳥取semiNAVELのトミさんから「びっくりするよ」と事前に聞かされていたけど、1曲目が始まったとき思わず笑ってしまった。あまりにかっこよくて。「desert city」にこんな湿ったメロディックバンドがいたなんて...!MCではSkimmerへのお見舞いと九州豪雨の義援金の2つのベネフィットへの協力を呼びかけてはりました。

お次は大阪/兵庫のSomething。Pastwalker企画に引き続き2週連続で見ることができた。そのため前のときよりも音が体にスッと入ってきて、そのクセになるポップさをしっかり味わった。やっぱり"Something"は上がるな〜。

つづいて鳥取tele。音源ではソロの弾き語りだけど、この日はバンド編成だった。ずっとそうなんですかね?ムーディーなリズムに芯のあるやさしい歌が沁みた。なぜかAgainst Me!が思い浮かんだ曲もあったけど、たぶんぼくの気のせい。

最後は滋賀/愛知のNAVEL。ライブ前にトミさんから「セットリストまだ決まってないんやけど、やってほしい曲のリクエストとかある?」と聞かれたので、「"Down"が聴きたいです」と答えたところ、どうやら"Down"はやってないそうで、次に「 "Heartache"が聴きたいです」とお願いしたら、1曲目に"Heartache"やってくれた!新旧バランスよく織りまぜた選曲。圧巻のパフォーマンスに笑うしかなかった。ぼくはお酒が飲めないからウーロン茶を片手にNAVELで酔う。終盤になってメンバーに少し疲労が見えてきても、聴衆から「Skimmerの分(までやるって言ってたやん)!」と発破をかけられ、2度のアンコールに応えて終演。気がついたらお客さんが増えてた。

このあとSkimmerがいたらさらに最高だったけど、熱気と温かみに包まれたすばらしいライブでした。Strawberry Fieldsの雰囲気もよかったし、また機会があれば来たい。

ライブ後は物販を物色。前のディストロをやめてここ2年ほどは年間に10枚くらいしか音源を買っていなかったけど、この日だけで9枚買った。でも汽水空港の本をチェックするのを忘れたな〜。楽しみにしてたのに。それにしても鳥取のみなさんはやさしい。気さくに話しかけてくれた。

ひょっこりやってきたぼくも打ち上げに参加&公民館に宿泊させてもらえることになり、とてもありがたかった。Strawberry Fields横の駐車場に原付を置いたまま、Fixing A Holeドウドウさんの車に乗せてもらって、「ぽかぽか温泉」というスーパー銭湯へ。湯船につかると日焼けしたところがヒリヒリ痛んだ。夕食をとって、打ち上げ&宿泊場所の公民館へ行く。なかは畳とフローリングが半々の大部屋になっていて、修学旅行やサッカーの合宿を思い出した。長机をロの字型に並べ、みんなでお酒を飲みながら歓談。すでに日付は変わってる。館内に入ってきたセミが昼間と勘違いしてフルテンションで鳴いていた。そういえば、semiというバンド名は、このセミではなくて、セミファイナルとかセミロングとかのセミを意味するのだとか。ぼくはほとんどの時間あちこちから聞こえてくる話をただ盗み聞きしていただけだけど、tele長坂さんが「DIYっていうのは自由になるための方法」と言っていたのが印象に残った。簡潔で腑に落ちる言葉だ。移動の疲れもあってそのほかの会話内容をあんまり覚えてない。ただ、SPユウキさんによると、ぼくは大仏のような顔をして長坂さんの話を聞いていたらしい。先に寝させてもらったけど、夜が明けるまで話してた人もいたとか。

 

7月22日の朝。大半の人はまだ眠っている。前日に買った「TH3EE DAYS AWAY #22」を読む。やっぱりおもしろい。ぼくの思う「これぞファンジン」って感じ。スタイリッシュすぎないのがいい。NAVELのメンバーが寝ている横でNAVELのインタビューを読むのはなんか不思議だった。T3DAジン読了後、おへそやでもらったフリーペーパー「Belly Button #1」にうつる。こちらもおもしろい。バンドやってる人の音源レビューは、ぼくみたいな素人には書けない音楽的側面について言及してあるから勉強になる。

この日は島根の松江NU(ニュー)でSP RECORDS企画「Hooray for SKIMMER」が行われる。Skimmerのツアーキャンセルで中止になった広島公演の代わりに急遽企画されたもので、NAVELが初めて島根の地を踏む日となる。前述のとおり、ぼくも連れていってもらえることになっていた。そうすると、いよいよ原付の存在がジャマになってくる。車に積んでもらうという案もあったがむずかしかった。結局、原付は鳥取に置いていくことに。こいつさえなければ、NAVELカーに乗せてもらって翌日23日の福岡ライブ(最高のメンツ!)にも同行し、帰りは京都の近くまで送ってもらうことも、もしかしたら可能だったかもしれないのに。完全にミスった!まあ、ネタにはなりました。。

SomethingのTommyさんに前日ライブのあったStrawberry Fieldsまでわざわざ送ってもらう。帰りは松江から鳥取まで電車で戻ろうと考えてたんで、原付を鳥取駅の駐輪場に停める。SP RECORDSユウキさんの車に乗せてもらい、いざ島根へ!ユウキさんはぼくに縁を結ばせるべく、まずは出雲大社に連れていってくれるという。べつに恋愛的な縁ではなく、人と人とのいろんな縁だよと。SP RECORDSにしたって、縁もゆかりもない島根に拠点を移し、新たに縁を結びなおして、企画を主催するまでになってる。当面は裏方に徹するらしく、島根からメロディックバンドが出てきてほしい、と語っていた。たぶん近いうちに出てくるんじゃないかな。そんな話をしながら出雲に着いたのはいいけど、思ってたよりも時間がないことがわかり、出雲大社ゆきは取りやめになった。出雲大社とは縁がなかったみたい。

ユウキさんがちょっと家に寄りたいということで、SPハウスにおじゃました。家には母屋と離れがあり、離れがまるまるSP RECORDS専用基地になってる。レーベルのリリース作品やディストロ音源や私物のコレクションがたくさん。ユウキさんがシャワーを浴びにいってるあいだ、レアな音源をちょっと拝借したい気持ちもないではなかった。SPハウスをあとにして、出雲そばのお店に連れていってもらう。割子(わりご)そばというのだそう。器が三段重ねになっていて、上から順に薬味とつゆをかけて食べる。おいしかった。よし、松江へGO!

出雲から40分ほどで松江に着いた。ライブ会場の松江NUは、宍道湖から中海に流れこむ大橋川に架かる松江大橋の南詰にあるビルの2階。音楽好きの人たちが集まり、もともとはジャズバーだった場所を借りて、2016年4月にイベントスペースとしてオープン。市が計画する大橋川の拡幅工事のため、この地域一帯が取り壊されることになっており、2年という期間限定で営業を開始。しかし予定より早く、年内いっぱいで終了するという。残念。機会があればぜひ行ってほしい。なかは三角形のような間取りになっていて、北東向きの窓から大橋川を一望できる。このすばらしい景色といったら!時間帯と天候によっては夕日を背にライブを見るかたちになる。Finxing A HoleドウドウさんやNAVEL、そして急な呼びかけに応えて出演が決まったthe sequel(ザ・シークエル)の高橋さんがやってきて、ぼちぼちリハーサルが始まった。特殊な形状の部屋だから、タクミさんがツーバスをセッティングすると、ロケット鉛筆方式でトハタさんがステージからはみ出てしまう。機材の位置を調整しながらベストポジションを探っていく。主催者でもバンドでもないぼくはぼ〜っとして気楽なもんです。リハ見学後は近くを散歩。川沿いのベンチで横になる。風が心地よくて眠ってしまった。

起きたら開演15分前。NUに戻る。予告されていたとおり、SPユウキさんが出張NAVELグッズ印刷を行なっていた。持参したものにNAVELロゴをプリントし、自分だけのオリジナルグッズをつくってもらえる。NAVEL好きにはたまらないでしょう。若いお客さんがもってきたパジャマがグッズ製作第1号。ぼくもケータイにプリントしてもらった。急な企画であること、同日に津山でSportの来日ライブがあることも影響してか、お客さんはぼくを含めて4人。でもライブそのものは人数なんて関係なかった。

オープニングは松江や米子で活動するthe sequelの高橋周作さんのソロ。the sequelはメンバーの諸事情によりなかなか活動できていないのだとか。これはみんな言っていたのだけど、高橋さんめちゃくちゃ歌うまい。NUから見える風景と重なってすごくよかった。

そして二夜連続のNAVEL。前夜の鳥取ライブとは新曲以外カブりなしのセットリスト。その新曲はNAVEL史上もっともサッドですさまじい曲だと思う。個人的には"Small Bag"をやってくれたのがうれしかった。この日はメンバー3人がとことん音楽に没入してるように見えたし、自分もその音楽の一部になってるような気がした。知らないあいだにNAVELA.T.フィールド内に入りこんでいたのかもしれない。かっこよすぎて涙が出そうになった。ぼくが言うのもなんですが、もっと多くの島根の人に目撃してほしかったです。

ライブ終わりはその場で打ち上げ。トミさんとタクミさんはNAVELの活動23年にしてこの日がベストライブだと口をそろえた。やってる人と聴いてる人の感覚はもちろんちがうのだろうけど、ぼくにとってもベストライブ。二人は「いいライブをしてるときは、頭で考えるんじゃなくて、体が勝手に動く」と言ってたけど、ぼくもサッカーしてるのでその感覚わかるな〜と思った。ぼくにわかるのはここまでで、このあとに松江NUの立ち上げメンバーの人を交えて大いに盛り上がっていたアニメの話には全然ついていけなかった笑。NUからすぐ近くに初音寿司というお寿司屋さんがあって、ユウキさんがおつまみのケータリングを頼んでくれて、これがまためちゃくちゃうまい。ただ、トハタさんが「初音」という言葉を聞くたびに反応してたのはなんやったんやろ?たのしい夜会のあとはラーメンを食べにいった(トミさんはゲストハウスで爆睡)。

 

翌朝、お世話になったNAVELのみなさんに別れを告げる(原付さえなければ、いっしょに福岡に行けたのに...)。電車で鳥取まで戻ろうと思ってたけど、お金も時間もかかるということで、ユウキさんが車で送っていくよと言ってくれた。なんちゅうやさしさ!なんの見返りも求めずに、わざわざ往復250kmの距離を運転することもいとわないユウキさんには感謝の言葉も見つからない。SP RECORDS最高!また島根行きます。

鳥取からの京都への帰りは行きと同じ道をただただ無心で走った。そのためタイムの短縮に成功。行き帰り合わせて3回給油してトータル1000円ちょっと。そこだけ見たら安いか。

この3日間ほんと楽しかった。いろんな人にお世話になり、刺激を受けた。ありがとうございました!