A/\

f:id:nezuminofukuro:20200625152406j:plain

1990年代前半にアメリカのオレゴン州ユージーンで活動したArtless Motivesと、同郷のBickerによるスプリットLP。1994年リリース作。Artless Motivesサイドは、前年に自分たちのレーベルLittle Willy Recordsからカセットでリリースした1stアルバム『Peace Through Corndogs』が、何曲か削られたうえで収録されてる。Bickerもメロディアスなポストハードコアでかっこいいけど、なかなかそちらの面に裏返せない。

Artless MotivesはおそらくOperation IvyやCrimpshrine/Fifteenなどのベイエリアのバンドに影響を受けたであろうポップパンク。実際、Fifteenとショートツアーをおこなったこともあるらしい。この音源まではトランペットのメンバーがいて、スカも入ってる。エネルギーをもてあます日々の悶々とした感情をぶつけるような若さあふれるサウンドは、前のめりに突っ走っていく勢いがある。掛け合いやコーラスもラフな感じ。ハードになりきれず、どこか滲み出てしまうショボさがたまらん。

Little WillyのBandcampでは、2ndアルバム『The Corndog Conspiracy』や未発表の3rdアルバム『The Liz Phair Conspiracy』のほか、メンバーが今やってるOi!パンクバンドBlues Bustersなど関連バンドの曲も聴けるので、気になる人はチェックされたし。

ちなみに1stアルバムと2ndアルバムのタイトルにある「corndog」なる語は、当時メンバーが大きな影響を受けていたMinutemenの"History Lesson - Part II"という曲の歌詞からとられてるそうな。

We learned punk rock in Hollywood
Drove up from Pedro
We were fucking corndogs
We'd go drink and pogo

おれたちはハリウッドでパンクロックを知った
サンペドロから北上してきたんだ
おれたちはめちゃくちゃダサかった
よく飲みにいってはポゴってた

「corndog」というのはアメリカンドッグのことで、あちらのスラングで「ダサいやつ」って意味もあるらしい。アメリカンドッグって和製英語やったんやね。

で、アメリカンドッグが食べたくなったので、作り方を調べて作った。ホットケーキミックスを使ったから簡単やったけど、中身をバナナにしたら甘すぎた。。

f:id:nezuminofukuro:20200625185911j:plain

 

ところで『Peace Through Corndogs』のアートワークなんやけど(二人の子どもが抱きあってるイラストね)、1980年代に活動したTally-Hoeというイーストベイパンクバンドのデモテープのジャケと同じだと気づいた。Artless Motivesがそこからパクったのか?ほかに元ネタがあるのか?気になったので、Little Willyにメールで質問してみると、Artless MotivesのギターボーカルだったJoshさんからすぐに返事が来た。「(あのイラストは)シェル・シルヴァスタインの『歩道の終るところ』からとったんだよ」との回答だった。

知らなかったんやけど、シェル・シルヴァスタインさんというのはアメリカの作家/イラストレーターのようだ。『おおきな木』という絵本が有名らしい。『歩道の終るところ』(原題:Where the Sidewalk Ends)はイラスト付きの詩集。日本語版は倉橋由美子さんの訳で1979年に講談社から出版されてる。早速、図書館で借りてきた。

ペラペラ、、

 

f:id:nezuminofukuro:20200625154335j:plain

おった!

こういう線画、好きやわ。イラストを眺めるだけでも楽しい。ひとつひとつの詩が絵本のお話みたいな感じで、大半が1ページにおさまるくらいの長さ。ユーモアがあって、クスッとしたり、ギョッとしたり、ハッとしたりでなかなかおもしろい。英語版と照らしあわせながら読んでみると、原文にある言葉遊びやリズムのおもしろさをなんとか伝えんとする訳者の工夫と苦心の跡がうかがえて感心する。

例えば上のイラストが付された詩はこんなの。

  逢引き
綱引きはしたくない
逢引きの方がいい
引っぱらないで
抱きあって
クスクス笑って
ころげまわって
キスして
ニコニコ笑って
なでまわして
みんなが勝つってわけ
      HUG O' WAR
I will not play at tug o' war.
I'd rather play at hug o' war,
Where everyone hugs
Instead of tugs,
Where everyone giggles
And rolls on the rug,
Where everyone kisses,
And everyone grins,
And everyone cuddles,
And everyone wins.

この詩はシンプルなのに(だからこそ?)なんか深みがあって好き。

 

あと、Joshさんとのやりとりで個人的におもしろい話を聞いた。Artless Motivesは「元祖メロコアNICOTINEと交流があったというのだ。ぼくはNICOTINEきっかけでパンクというものを知ったクチで、友だちの部屋で流れてた"Black Flys"を聞いて、Jポップしか知らない耳にかなりの衝撃が走ったのを覚えてる。そういう意味では思い入れがあるバンドなんやけど、このつながりはめっちゃ意外やった。

NICOTINEまとめサイト」さんがまとめたNICOTINEの「歴史」のページに以下の記述があった。

[1993年]8月 : 渡米。西海岸、メキシコで10回のライブを行う。 初ライブはオレゴン州ユージーンという場所。 アメリカのパンク・カルチャーに触れ、この影響でパンクロックを目指すようになる。(※文中の[]は引用者による)

NICOTINEはもともとグランジ系のバンドだったらしい。 かれらをパンクに向かわせたきっかけにArtless Motives周辺との交流もあったんじゃないかな。

さらにJoshさんによると、NICOTINEArtless Motivesの曲のカバーまでしてるそうだ。NICOTINEのライブテープにそのカバーが入ってて、少し歌詞を変えてるか、もしくは曲の一部を演奏してるかのどちらかだという。残念ながら、肝心のそのテープは失くしてしまって手元にないらしい。もしかしたらだれかが個人的に録音したテープであって、リリースされた代物ではないかもしれないとのこと。だとしたら見つけるのは相当むずかしそう。う〜ん、聴いてみたい!

あなとーる

1999年から2002年まで活動したドイツのパンクバンドAnatol。むかしMySpaceで知ってからずっと音源を探していたけれど最近作られたBandcampを見つけた。

音源は2000年リリースの10インチと2008年リリースのLPがある。後者は2001年に録音したものの活動当時はリリースできなかったもの。2008年についにLPをリリースした際にバンドは一時的に再結成している。自分がMyspaceで知ったのもこの頃だと思われる。

青臭さと勢いにあふれアグレッシブに突進していくエモーショナルでギラついたメロディックパンクがかっこいいAnatolさん。よく引き合いに出されるカナダのI Spyのような激しさや熱さとか90年代ローカルポップパンク的な垢抜けなさとかもあって心くすぐられる塩梅。Muff Potterや...But Aliveなどに連なる"Deutschpunk"ないしドイツ語メロディックパンクではあまり見かけないようなその独特さが好き。

2008年リリースの『Rette Sich, Wer Darf 』はまだLPレコードの在庫があるみたいなので、AnatolのBandcampのプロフィール欄に記載されているメールアドレスに連絡すれば送ってもらえるはず。

それでぼくも実際に問い合わせてみたんやけど、最初に向こうから要求された金額がドイツからレコード1枚送ってもらうにはあまりにも高かったので注文しなかった。そのあと安くしてくれたんやけどそれでもちょっと高い気がしたし最初にふっかけられたのもあって気持ちが萎えちゃって、それで悩んだ挙句やめとくことにした。まーまたの機会に。相手はAnatolのオリジナルメンバーではないけど再結成時に参加したメンバーでありDuesenjaegerというこれまた良いバンドをやっている人物なので連絡すればちゃんと送ってくれるのは送ってくれると思う。

 

あと、Anatolのメンバーの一人は解散後にThe Missing Shadowsを結成し、そこからIdle Handsを経てさらにBlank Pages, Rubyなどで活動。

FY

テキトーに選んだうちにあるレコードを雑に紹介。

f:id:nezuminofukuro:20200615202903j:plain

Free Yourself - Antar Ma Una LP (1996)

ドイツのデュッセルドルフを拠点に活動していたFree Yourselfの1stアルバム。以前書いたQuest For Rescueの音源とかも出してるBlurr Recordsからの1996年作。LPはCDバージョンよりも1曲多い14曲入り。

アップテンポからミッドテンポな曲までどこか哀愁を漂わせるパンク/ハードコア。前作7"のBad Religion経由のユーロメロディック(ぼくにはそんなに例を挙げられないけど、例えば、もっと後のバンドだとThe Assassinatorsとか?)な雰囲気が好きだったけど、今作でもどっちかというとそっち寄りな速くて荒削りな勢いのある曲の方が個人的には好き。Free Yourselfはメンバー4人のうち3人がギリシャ出身なのもあってギリシャ語で歌っている曲があり、今作ではギリシャ語と英語が半々くらい。のちにドイツ語でも曲も作るようになる。歌詞は、自律と自由の発想とそれらを希求する姿勢が垣間見られつつ、自分たちの生や暮らしについてポジティブな面あるいはネガティブな面をパーソナルかつポリティカルな視点から描いているような印象。そんな歌詞とともに伝わってくる薄暗く靄がかかったような鬱屈とした感情とそこに時折光が差してくるような瞬間が見えたり見えなかったりするような楽曲にぼくの胸は熱くなったりならなかったり。そして英語よりもギリシャ語の歌がぼくみたいな人間からするとエキゾチックに感じられる味わいがある。

久々に聴いたらわりとよかった。Free YourselfはBandcampもある。

 

いちおう2ndアルバムとシングルコンピLPも持っている。なんか知らんけど。いや知らんことあるかいな。シングルコンピは昔ディストロしとったがな。1994年から2008年までのEPの曲を集めたやつでライブDVDも付いてるやつ。初期とは大きくスタイルが変わってはいるけど最後期もTurbostaatみたいなメランコリックなサウンドで好きだった。

f:id:nezuminofukuro:20200615202934j:plain

 

1st 7"は手放したと思っていたけど、ちゃんと探したらあった。

f:id:nezuminofukuro:20200615202956j:plain 

びゅふぉーど

ぼくはBufordが好きだ。Bufordの曲をきくのが好きだ。 

 

、  、、

 

千回ときいた曲でいまだにふるえたりする。

 

f:id:nezuminofukuro:20200608215815j:plain

 

Bufordは、カリフォルニアのレドンドビーチを拠点に1995年から1998年まで活動していたとされる4人組。リリース数は多くないが、その3年ほどの間にすばらしい音源をのこしてくれた。当バンドのギタリストLuisさんがNoise Patch Recordsという自主レーベルを運営しており、世に出されたBufordの3枚の7インチもすべてそこからリリースされている。

このバンドは本人たち曰くHusker Du, Replacements, Superchunkなどの影響を受けているらしい。そこは大いに合点がいくと同時にBufordもやはり時代の産物であるので、当時の気運を受けた90年代後半にかけてのエモに通じる音楽性をもっている。Samiamや2 Line FillerやEversorといったバンドが好きな人からも愛されるのもうなずける最高のメロディーとエモーション。それはまた独自の色をはなってきく者をひきつける。またBufordは前身バンドのひとつであるFor Saleの世界観を受けついでいる部分もあると思う。ちょうどFor Saleが90年代ポップパンクファンにおなじみのShredder Recordsからのコンピ、一方BufordがDeep Elm Recordsのエモ日記コンピに収録されているってのが、両者の質のちがいだけでなくそれぞれが活動していた時期の潮流みたいなものを物語っているかなと。あとRhythm CollisionやConquistadorsなどもBufordの前身にあたる。Dead Lazlo's Placeもね。

ぼくのBufordデビューはSleepasaurusとのスプリット7インチだった。この円盤にはじめて針を落として流れてきた"After Dark"という曲にまんまと心をわしづかみにされてしまったのであった。どうにもできないやるせなさを喚起してくるような名曲であるが、そのときは単純に「やばい曲に出会った」という興奮がそれをうわまわっていた。つづく"Seven"でもドラマチックがとまらない。だからこの2曲を延々ききながら「こ、こりはおりのためのおんがくだぁ…」と一人壁にむかって唱えながらプルップルふるえてたんとちゃうかな。しらんけど。そんでSleepasaurusが負けじともってきた"April Showers"もその曲名を冠したディストロがのちにあらわれるくらいには良い曲。

つぎに手にとったBuford唯一の単独音源であるセルフタイトルの7インチではA面の1曲目"Pedal On"から一気に引きこまれた。さらなるBufordワールドにぼくが足をふみいれたというだけなのだが、今作に収録されている4曲によってこのバンドのなんていうかもう少しふところの広いところを見せられた気分だった。きくまえからの胸の高鳴りはききおえたあともとまらない。たしかにB面の最後がループ再生されてずっと鳴りっぱなしやったけど(ロックド・グルーヴという仕様らしい)。なんにせよこれまた大当たりのレコードだったわけで、「もしかしたらこのバンドは全音源ええんちゃうか」という疑念がわきはじめていた。そうなるとほかの作品もさがすしかなくなる。For Saleもそのながれでさがしはじめたんだけど。

前述の2作品より前のリリースとなるLoose Changeとのスプリット7インチ、このレコードでBufordはヴァイナルデビューを飾っている。初期音源だからなおさらかもしれないけど、今作におけるBufordは前身バンドFor Saleの面影をつよくのこしており、1曲目の"Incomplete"なんかはFor Saleの続編みたいな感覚。かと思えば、つづく"Repitition"ではより熱情的なそのエモーショナルさの質感がSamiam辺りを彷彿させる。しかしどんな表情をみせてもBufordはBufordってことでけっきょくどの曲もぼくの琴線にふれてくるのであった。お相手であるLoose Changeもグッドなポップパンクで、Noise Patchからは今作の数年後にアルバムをリリースしている。

3枚の7インチのほかにもBufordはいくつかのコンピに参加している。さきに書いたBuford/SleepasaurusのスプリットをNoise patchと共同でリリースしているレーベルであるMotherbox Recordsからのコンピ『Diversified Chaos』と『More Kaos』にはそれぞれ"Barrette"と"Lunch Line, Noontime Stories"が収録。それからBlack Tar RecordsとLooney Bin Recordsの共同によるベネフィットコンピに提供している"Too Late Blues"はBuford流Jawbreakeチューン。あとDeep Elm RecordsのコンピにはSleepasaurusとのスプリットに入ってた"After Dark"が選曲。

いまから10年以上前にぼくはBufordのメンバーであるLuisさんと一時期やりとりをしていた。MySpaceを介して連絡をとってたな。そのときにもうちょいいろんなことを聞ければよかったのだけどそれはできなくて、とりあえず「わて、おたくさんがやっとったBufordやFor Saleがごっさ好きですねん、ほんまですねん」と伝え、それから当時はじめたばかりの自分のディストロでBufordの7インチをあつかわせてもらうことになった。Noise Patch Recordsの主であるLuisさんはまだいくらかの在庫をもっていた。後日とどいた荷物にはBufordの7インチのほかに当時Luisさんが在籍していたKillNineNineのデモCDRが入っていた。KillNineNineはBufordとは似ても似つかないハードコアバンドなのだけどLuisさんはこのCDRにおまけの曲をたくさん入れてくれていた。そこに入っていたBufordの最後の曲"Blank Pages"は自分にとって宝物のような大切な曲になった。この10年なにかというとこの曲のなかに入り浸っていたと思う。

 

 

最後に、Bufordメンバーが現在やっているバンドやプロジェクトについてぼくの知る範囲で軽く言及しておく。ギタリストのLuisさんは2016年より復活したFor SaleやハードコアバンドDead Man's Lifeで活動中。デジタルフォーマットのみかもしれないけどFor Saleはディスコグラフィー音源をリリースしている。シンガー/ギタリストのSharifさんはExploding Flowersというジャングリーポップバンドをやっていて、新しいアルバムをBurger Recordsからもうすぐリリースする予定。またSharifさんは先月に3枚目のソロアルバムを出した元The BagsのAlice Bagにギタリストとして参加する主要メンバーのひとりである。さらに元Operation IvyのJesseさんと新しいプロジェクトを始めたという話も。

えんどオブぱいぷ

f:id:nezuminofukuro:20200601222549j:plain

ブラジルのフロリアノポリスを拠点とするメロディックパンクトリオEnd of Pipeが『Mass Hysteria』と題されたアルバムを6月1日にリリース。USのDown By Lawとのスプリット以来久々となる音源はバンド結成14年にして初のフルレングス。

本作はブラジルのElectric Funeral Record、USのTakeover Records、そしてトルコのMevzu RecordsからCDやカセットでのリリースのほか、各種音楽配信サービスにて利用可能となる。

Garage Fuzz, Samiam, Hot Water Music, Farside, Shades Apart等を思わせる90年代的な渋いメロディックパンク。あとフランスのSecond Rateっぽくもある。1曲目とかはもっとEpitaph/Fat Wreckな感じ。ちなみに本作にはShades ApartのMarkさんやSlap Of RealityのFrankさんといった人たちもゲストボーカルとして参加。

Website / Facebook / Twitter / Instagram / Bandcamp

しぇいズあぱーと

アメリカはニュージャージーのベテランバンドShades Apartが"Only Light"という新曲(未マスタリングバージョン)をBandcampにアップしている。(追記: 6月5日現在この曲は削除されているみたいです。)

今年何らかのリリースがあることを示唆する発言を以前にメンバーがしてたけど。そういったことは今後明らかになるはず。

ひっとめいかあず

カナダはオタワのパンクバンドTHE HiTMAKERS。おそらく2000年代に活動し、10年前後の空白期間を挟んで、数年前に活動再開した(って、前までプロフィールに書いてた気がする)。2019年には5枚のEPを(たぶんBandcampでのみ)リリースしてる。一聴してわかるJawbreaker影響下のサウンド。ピアノをフィーチャーしてるので、曲によってはむしろJets To Brazilに雰囲気が近いかも。ここまでBlakeさんを意識したボーカルも珍しいんじゃないかな。勢いや激しさは控えめで、寂しさと温かみに同時に包まれるような楽曲を聴かせる。個人的にちょっとダレてしまう曲もあるけど、どのEPでも1曲目はいい感じ。

上に貼った音源は、既発曲から5曲を選んで「グレイテスト・ヒッツ」と銘打ったもの。バンド名とからめた遊び心でアップしたのかな。